Never Say Dieにて、連載小説を描かせていただいております、現代史の公文書籍館の大塚と申します。
ジョー ジオーウェルの『1984年』のパロディ小説を毎週一回程度、連載していきますので、御高覧の程を、よろしくお願いいたします。
今回は、連
載
第九回目です。
ちなみに、次回の十回目で一区切りをつけ、また新しい別の『一旧八四年』のシリーズを始める予定です。
今回の十回のセットは『人間牧場物語編』とでもしておきます。
今回よりも前の話↓
小 説『一旧八四年』 09
すると、教壇に立つ教師、
「なるほど。一理ある」
と、何喰わぬ顔。
「先生は用事を思い出したから、職員室に行ってくる。先生が戻るまで、君たちはいまの件について、議論でもしていてくれたまえ」
教師は、そう言い残すと、そそくさと教室を出て行ってしまった。
そうすると、当然と言えば当然だが。教室に残されたみんなの視線が一斉に僕に向けられたわけである。
僕はいったいどうしたらいいか分からなかった。
しかし、教師が「一理ある」とのたまったくらいだから、僕が疑問に思ったことについて全く否定的ではない、とも思えてくる。
この教室にいる連中にも、僕の思うところ=「宇宙人が地球を侵略する必要性のないこと」に理解を示す奴はいるのではないか。僕はそんな淡い期待を抱いたわけだが、これはすぐに甘い考えであることが露呈した。
「カツヲくん。宇宙人はね。地球に攻めて来たんだ。だって、そう教科書に書いてあるじゃあないか」
となりにいた同級生が、戦前の頃の白黒写真が乗ったページをこれみよがしに見開いて、僕の目前にずいずいと近づけてきた。写真は、宇宙人の乗り物=UFOから浴びせられた光線が、真珠湾の連合国軍の艦隊を破壊しているの図。しかし、この写真がねつ造でない保証などない。
「カツヲくん。テレビもそういってる。戦中にUFOを全てNWO軍に撃ち落とされ、惑星に帰れなくなった宇宙人が、いまでも、僕らの前に出てきて悪さをするんだ。昨日だって、隣の区で宇宙人による爆破事件があっただろう? テレビで言っていただろう?」
自分たちの住む東京三区以外のところで起こる情報は全てテレビに頼らねばならない。三区をぐるりと囲む巨大な壁の向こうのことなど、ここにいる『丙』レベルの市民の誰一人としてその目で見たことがないのにも関わらず、この生徒は、「さも自分が見てきた」かのように言う。
それだけ、僕らの唯一の情報源=テレビさまが僕らの考え方を支配していると言ってよい。
「それとも、カツヲくん。君は、先生の言うことや、教科書、テレビの言うことが嘘だというのかい?」
とにかくこの調子である。疑うことを知らないのだ。
生まれてきてこのかた、ずっと言い聴かせられ、頭の中に構築してきたこの世の中に関する彼らのイメージを、つき崩してしまうような僕の発言は、とうてい彼らには聞き入れられるものではないらしい。
そもそも、うっかり口にした、宇宙人の侵略の可能性についての議論など、どこへやら。はなから議論などするつもりはないらしく、地球人の憎き敵=宇宙人が絶対的に存在することを前提に、彼らの知る常識を無理矢理にも僕に納得させようとしている。
皆がよってたかって、孤立する僕に言い浴びせている中、授業の鐘が鳴った。というより、鳴ってくれたと言う方が正しい。
それと同時に、教師が戻ってきて、僕の回りを囲んでいた同級生たちが、四散し、ようやく僕は連中の「言い聞かせ爆撃」から解放された。
ところで、そのとき僕は、教師から職員室あたりに呼びつけれることくらいは覚悟したのだが、特になんの音沙汰もなく、その後、もう一時限、別の授業を受けると、あっさりと下校時間となった。
この世の中の根底を覆すような発言をうっかりと漏らしてしまった僕だが、まったくもって何のお咎めもないのは、正直、不思議で仕方のないことだが、何もないことにこしたことはない。
僕は安堵し、帰路についたわけが、すぐにその考えが甘かったことを思い知らされることになる。
僕がいつものように習慣化しているコンビニへと入り、菓子を買うという行為が、この日に限って遂行できなかったのだ。
例の、やたらと味の濃い、スカスカの菓子をレジに持っていき、店員からIDカードの提示を求められたので、それをカードリーダーにスキャンした。このIDカードは東京都市民たるもの常に肌身離さず持ち歩いていなければならない身分証であることは既に述べたが、同時に、モノを買う唯一の手段でもある。東京都では、このIDカードを用いた電子決済のみが認められるわけで、このカードがないとモノも買えぬとはそういうことだ。
さて、IDカードをカードリーダーにスキャンすれば、いつもであれば、一瞬にして決済が完了するはずが、この時は、エラー音がけたましく鳴り響くだけであった。
「偽造じゃあないみたいだな」
すぐさま、僕のカードをひったくった店員は、カードがはたして本物かどうかじっと観察した。が、どうやら偽造ではないらしいとのこと。
「とすれば、残高が足りないんじゃあないのかい?」
店員は、そう言いながら、僕にカードを投げて返した。
「いや。そんなはずは。。。」
断じてない。先週、父ちゃんの銀行口座から小遣いを振り込まれたばかりだ。毎週第三土曜日がぼくの小遣い日。その日に、僕のカードに電子的に金銭の授受をするように設定されているのだ。事実、昨日だってまだ、菓子くらい買えるだけの十分な残高が残っていることは確認した。普段は物覚えが悪い僕でも、金銭勘定を間違えるほど衰えてはいない。
「じゃあ。両親の税金とか、公共料金の滞納とか? はたまた脱税とか?」
店主はあらゆる可能性を口にしたが、どれもあり得ない。
この東京都ではあらゆる支払いが電子決済で管理されている。各家庭が開設した銀行口座から、毎月決まった日に、各種公共料金ならびに税金は引き落とされる。金銭のやり取りは全て、自治体のコンピュータにより電子的に管理されているから、脱税など行いようがないし、滞納もありえない。口座残高がゼロになれば話は別だが、父ちゃんは今日もばりばり仕事で、それこそ死ぬ思いで働いているだろう。
「じゃあ、友愛省のヒトに来てもらう?」
店員は意地悪っぽく言った。何かあれば、店員はすぐ警吏を呼ぶなどと言うから困る。
「い、いいえ。結構です」
僕は、即座に断って店を出た。菓子が買えないくらいはなんとか我慢できる。それにIDカードのトラブルでまた、友愛省の警吏に職務質問を受けて、怒り狂った父ちゃん母ちゃんに迎えにきてもらうなど、まっぴらごめんである。
電子的な決済のトラブルは珍しいことでもないらしい。カードが故障したというのが一番ありうる線だ。僕はとりあえず帰宅し、その辺のことを母ちゃんに聞いた上で処置を考えることにした。
路面電車通学ともなると、IDカードが仕えないともなるとやっかいだが、あいにく僕は、自宅まで徒歩だから、IDカードなしでも別に困ることはない。
そんなわけで、歩いて十分も経たぬうちに、自宅前に到着した。
が、どうも自宅前がただならぬ様子。
なぜなら、自宅前の幅の狭い道路を、友愛省の警吏の白バンがふさいでいたからである。
どうやら、これはただごとではなさそうだ。
小 説 『一旧八四年』 10へ、つづく


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